倒産した飲食店の多くは開業から数年で行き詰まる
2025年の飲食店経営事業者の倒産件数は900件を超え、過去最多を更新しました(帝国データバンク調べ)。食材費や光熱費の高騰、人件費の上昇に加え、同業との競合が激化する中、中小・零細の飲食店を中心に倒産・廃業が相次いでいます。倒産した飲食店の中でも、設立から10年未満の店舗が大きな割合を占めており、開業時の判断ミスが数年後に経営を行き詰まらせるケースは少なくありません。
ここでは、税理士として相談を受けてきた中から、開業時に避けてほしい失敗パターンを5つ紹介します。
失敗1:青色申告の届出を出し忘れる
飲食店を開業したら、税務署に「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。開業届は出したのに、青色申告の届出を忘れていた――この相談は実際にあります。
青色申告の届出を出していないと、その年は自動的に白色申告になります。影響は想像以上に大きいです。
| 項目 | 青色申告 | 白色申告 |
|---|---|---|
| 特別控除 | 最大65万円 | なし |
| 配偶者への給与(専従者給与) | 全額を経費にできる | 年間86万円まで |
| 赤字の繰越し | 3年間繰り越せる | 繰り越せない |
たとえば、夫婦で飲食店を経営していて、配偶者にホール業務の給与として年間400万円を支払っていた場合、白色申告だと86万円しか経費にできません。差額の314万円に対して所得税がかかるため、年間で100万円近く余計に税金を払うことになったケースもあります。
届出の期限は、1月16日以降に開業した場合は開業日から2ヶ月以内です。1月1日〜1月15日に開業した場合はその年の3月15日が期限です。期限を過ぎると翌年まで青色申告は使えません。開業届と一緒にその場で出してしまうのが一番確実です。
失敗2:厨房設備にお金をかけすぎて運転資金が足りなくなる
飲食店の開業費用は1,000万〜1,500万円が一つの目安です。このうち厨房設備と内装工事で全体の50〜60%を占めます。業務用冷蔵庫、製氷機、ガスコンロ、フライヤー、食器洗浄機、そしてダクト工事――飲食店は揃えるべき設備が多く、見積もりが膨らみやすい業態です。特にダクト工事は物件の構造によっては200万〜300万円かかることもあり、想定外の出費になりがちです。
問題は、設備投資にお金を使いすぎて、開業後の運転資金が足りなくなることです。開業直後はお客さまが計画どおりに来ないことも多く、家賃・光熱費・食材費の支払いは待ってくれません。
運転資金は最低3ヶ月分、できれば6ヶ月分を手元に残しておくのが目安です。月の固定費が80万円なら、240万〜480万円は設備投資に回さず確保しておく計算になります。
融資審査でも「運転資金が少なすぎる」と指摘されて減額提案を受けるケースがあります。厨房設備の見積もりを取るときは、「お客さまに料理を提供するために必要な設備」と「あったら便利だけど後からでも追加できる設備」を分けて考えてください。業務用冷蔵庫や食器洗浄機は中古やリースも選択肢に入れると、初期費用を大きく抑えられます。まずは営業に必要な最低限の設備で始めて、売上が安定してから追加投資するくらいが安全です。
失敗3:開業と同時にスタッフを採用してしまう
以前の職場で一緒に働いていた料理人やホールスタッフに声をかけて、開業時から採用するケースがあります。売上を早く伸ばしたい気持ちは分かりますが、開業直後の段階でスタッフを抱えるのはリスクが高いです。
飲食店の経費で最も大きいのが人件費です。売上が安定していない時期に毎月固定で給与が出ていくと、資金繰りが一気に苦しくなります。実際に、開業から半年でスタッフへの給与が払えなくなり、退職を勧めるしかなくなったという相談もあります。
ただし、飲食店は業態によっては1人での営業が難しい場合もあります。ホールとキッチンの両方を同時にこなすのは物理的に限界があるからです。もし人件費を抑えたいなら、開業時の業態選びの段階から考えておくのも一つの手です。たとえばカウンター8席のラーメン店や、テイクアウト専門店であれば、ワンオペでも回せる設計にできます。
テーブル席のある店舗でどうしてもスタッフが必要なら、正社員ではなくパート・アルバイトを最小限の時間帯だけ入れる方法でまずは乗り切ってください。利益でスタッフの給与を払える見通しが立ってから、正式に採用を増やすのが安全です。
失敗4:立地を妥協してオープンしてしまう
物件探しに時間がかかると、退職日やオープン予定日が迫ってきて焦りが出ます。「路地裏だけど家賃が安いから大丈夫」「駅から遠いけど駐車場があるから大丈夫」――こうした妥協が、開業後の集客に響きます。
飲食店の立地選びでは、以下の条件を業態に合わせて確認してください。
駅前・繁華街型(居酒屋・カフェ・ランチ業態など)の場合:
- 駅から徒歩5分以内であること
- 人通りの多い通りに面していること
- 道路から店内の様子や看板が見えること(視認性)
- 周辺にオフィスや商業施設が集まっていること
ロードサイド型(ファミリー向け・郊外のラーメン店など)の場合:
- 4台以上の駐車場があること
- 駐車場の入り口が入りやすいこと
- 道路から車で走りながらでもお店が見えること
- 中央分離帯のない道路(生活道路)に面していること
すべて満たす物件は簡単には見つかりませんが、立地の不利は料理の味ではカバーしにくい部分です。物件探しは「自分がどんなお店を作りたいか」ではなく、「お客さまが来店しやすいかどうか」の目線で判断してください。
失敗5:最初から法人で開業してしまう
「お店を開業するなら会社を作るもの」と思い込んで、開業と同時に法人を設立する方がいます。法人で経営すること自体は問題ありませんが、個人事業との違いを理解しないまま設立すると、余計なコストが発生します。
| 比較項目 | 個人事業 | 法人 |
|---|---|---|
| 設立費用 | 0円 | 約20万〜25万円(登録免許税・定款認証など) |
| 社会保険 | 飲食店は非強制適用業種のため任意 | 代表者1人でも強制加入 |
| 決算・申告 | 確定申告(比較的シンプル) | 法人税申告(税理士への依頼がほぼ必須) |
| 赤字の繰越し | 3年間 | 10年間 |
開業初年度は売上が読めないため、社会保険料の負担や法人の維持コスト(決算費用・法人住民税の均等割で年間約7万円)が重くなります。まずは個人事業で始めて、所得が安定して増えてきた段階で法人化を検討する方が、手元にお金が残りやすいです。
一度設立した法人を取り下げるにも費用がかかるので、法人にする明確な理由がないなら個人事業からスタートしてください。
当事務所のサポート
飲食店の開業で失敗を防ぐには、お金まわりの判断を開業前の段階で整えておくことが大切です。当事務所では、青色申告の届出をはじめとした開業手続き、事業計画書の作成、融資審査のサポートまで、開業準備の段階から一貫してお手伝いしています。
「この設備投資額で大丈夫か見てほしい」「個人と法人どちらで始めるべきか迷っている」といったご相談も歓迎です。開業前の不安を一つひとつ解消しながら、長く続けられる飲食店経営の土台を一緒に作りましょう。
